何度も何度も振りかざされても
私はそれをただの一度も美しいと思ったことはない
ただ、ぼんやりと映るランタンの灯りは
絶望のその果てを映しているようで――
「白希、みーつけたぁ」
玩具を与えられた子供のように嬉しそうな声が響いた。
私は連れていた人物へ出口への方向を示しながら逃げるように、と追いやる。
そこにいたのはまさに死神。
闇に溶けそうな黒い髪と、髪と同じ色の衣に身を包んだ彼は、
鋭く研ぎ澄まされた鎌の先を地面に触れるか触れないかのギリギリの位置でゆらゆらと揺らしている。
金の瞳に少し橙色が混ざったその異質な瞳はまっすぐ自分を捉えている。
最悪だった。
(落紫ならまだあしらえる可能性があったんですが……。)
奈色の紫であり一番末端の落紫は必要以上に獲物で長時間楽しみたがる傾向があるため
隙をついて逃げれる可能性があった。
しかし、目の前のその人物は奈色の頂点に立つ者。奈色の黒、焉刃である。
その戦法は一撃必殺。
鎌を使えば一瞬で相手を切り刻み、ライフルを使えば的確に心の臓を撃ち抜く。
「……」
彼に当たった時点で自分は終わりだということはよくわかっている。
しかし、僅かであろうとも迷い人を逃がす時間を作らねばいけない。
一瞬眼目を閉じた後、手に持っていたランタンから手を離した。
ランタンは地にぶつかる前に黒い霧となって消えていく。
そして、自由になった手で居合いの構えを取る
何もなかった手の片方に黒い闇が集まり刀の形を帯びた。
焉刃の目が先程より更に細められ、口元が先程以上に嬉しそうに歪む。
その口元がゆっくりとなにか言葉を紡ごうと動いた
「――」
しかし、その言葉を紡ぐより先に
白希の抜き放つように振るった刀の形をした闇が衝撃波のように
焉刃へと向かっていく。
――焉刃は闇が自分を襲う前に回転するように鎌を投げる。
そして、空いた手でライフルを生み出し、照準を確かめることなく一発だけ撃ち放った。
衝撃波の形を模した闇を綺麗に抜けて自分の胸を撃ち抜いた銃は
焉刃の悪意で弾は身体から飛び出す前に軽い爆発を起こしながら四散していく。
そして、衝撃派を模した闇をあっさりと弾き返した鎌を掴み
焉刃は自分のもとへ飛んでくる。
そのあとはいつも通り。
狂ったような高笑いが響き
強い衝撃の後に赤い血飛沫と自分の肉片が霞んでいく瞳に映る。
焉刃が自分を殺そうとしているのだ。
(無駄なのに……)
そう呟こうとした口と顎はもう彼の手で切り裂かれてどこにあるのかわからない。
(意味*な***)
考える脳も切り裂かれて意識が途絶える。
(*******……)
最期に、焉刃を映していた瞳も切り裂かれた。
無意識に浮かんだ言葉は誰にもわからないまま――
「同士白希。おはようございます」
闇に浮く金の髪と碧眼が最初に瞳に映った。
「きりゅう……」
自分を同士と呼んだその人物は奈色の黄、切流。
「はい。あなたの愛しき切流です。同士白希、いつまでも寝てると寝込みを襲われますよ?」
「……」
動かそうとしている腕が脱力で落ちそうになるのを必死で留める。
そして、少々時間をかけて起き上がった。
「相変わらず容赦0でしたね非同士焉刃は。全く、同士白希の美しい髪を切り刻むとは!
きちんと再生されるから良いものの!これがされなかったら一大事ですよ!世界の損失です」
「いや、刻まれてるのは髪どころではないんですが……」
という会話を続けながら二人は道中の獣に似た形の化け物を軽く葬りながら歩く。
「ところで切流。先程の迷い人はどうなったのですか?」
「私はあんな非同士興味がないので目に入れるどころか記憶に留める事も
したくはなかったのですが、まぁきちんと見ていてあげました。
足が速くて助かりましたね。鳥たちにつつかれながらも脱出してましたよ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
と、興味もなさそうに実にそっけない感謝の言葉を述べた。
切流は満足したようにニコニコとしている。
――鳥につつかれたとなると、帰還時には
多量出血でけえさつざた……とかいうのでしょうね。
と、思いつつ、近くにいた人の頭ほどある巨大な鳥を眺める。
そのクチバシは鋭く大きい。
切流は同じ鳥を軽く眺めた後、ため息をつきながら
「噂をすれば非同士落紫の鳥ですか、相変わらず美しくないですね。」
と、興味なさげに呟いた。
自分は空いていた手に慣れ親しんだランタンを生み出たあと、
ランタンから闇を出し鳥を闇に包み消した。
そして、ぽそりと独り言にように
「そうですね。」
と、抑揚のない声で返した。
そして、また光のない世界をあてどもなく歩き出したのだった。